プレーヤーのS/PDIF出力をバイナリ比較
いまだに誤解されている方が多いのですが、PCオーディオの利点としてよく挙げられる理由に、「CDプレーヤーより正確にデジタルデータが取り出せる」、があります。曰く、「CDプレーヤーは再生中に読み直しなどができないのでエラー訂正できない場合はすぐ補間してしまうが、PCでリッピングする際には読み直しなど時間をかけた処理ができるのでエラー訂正が強力で、補間が少なくなる」、だそうです。
酷い言われようですが、実際には、CDプレーヤーでも、PCでのリッピングと同様に、補間(*1)にまで至るケースはほとんどありません。よほど酷いCDを再生しない限り、出力されたデジタルデータは同じです。これを確認するのは我々一般ユーザーでも比較的簡単で、筆者は、CDプレーヤーのデジタル出力をPCで録音して(*2)、PCでリッピングしたファイルとefuさんのWaveCompareなどで比較しています。
誤解が広まってしまった背景には、営業的にPCオーディオ機器が優れている理由を(無理にでも)作りたかったこと、ユーザー側も「デジタル的に同じ=再生音も同じ」と思っているので、「再生音が違った=デジタル的に違う」と、何の測定もせずに思い込んでしまうこと、があるのじゃないかと思います。
筆者は、CD再生とPCオーディオなどファイル再生の音の違いは、メディアや読み取り機構を含めた再生環境の違いにあると考えています。同様なことは、デジタルケーブルの違いなど、他にも沢山ありますよね。
とは言え、CDプレーヤーの悪条件ディスクの訂正能力もPCと比べてどうなのか?、気になりますから確認してみました。PCと違い?故障しては困るので、あまりな悪条件は避けて簡単に済ませていますのでご容赦下さい。
なお、ぶっきらぼう?な筆者とは異なり、えるえむさんが丁寧なこのページの解説を書いて下さっていますので、ご覧下さい。
CD再生時もリッピング時も、読み取りエラーは多く発生しています。エラー訂正の仕組みにより、そのほとんどは訂正されます。訂正できない場合は、前後のデータから類推して穴埋めします。これを補間と言います。穴埋めですから、補間された箇所はデジタル的に元と同じにはなりません。CD再生はHDDの読み出しとは異なり、途切れることが許されないので、こういうことになっているようです。PCでのリッピングもRedBook準拠で行われますから、CD再生と同様のエラー訂正が行われます。
*2
44.1kHzをそのまま扱えるサウンドデバイスを使う必要があります。意外に思う方もいらっしゃると思いますが、サウンドデバイスの中には内部的に48kHz(またはその倍数)でしか動作しないものがいまだにあります。このようなデバイスで44.1kHzを扱う際にはサンプリングレート変換して対応しています。コストダウンのため簡易的な動作になっているようです。なので、このようなデバイスを用いてS/PDIFから録音されたWAVEとリッピングしたWAVEを比較しても一致しません。
DAW関係のサウンドデバイスメーカーの製品ならほぼOKだと思います。再生と異なり録音でのバイナリ一致にASIOは必ずしも必要ではありませんが、ASIOドライバーが添付されているサウンドデバイスのほとんどは前記条件をクリアしているのじゃないかと思います。ただし、入力をミックスしてしまうステレオミキサーを使用しないようにします。
安価には玄人志向の CMI8738-6CHLP2 があります。Roland の UA-1G や M-Audio の TransitUSB も大丈夫です。
方法
- オーディオのプレーヤーで再生。
- 光S/PDIF経由でPCに録音。
- 録音したWAVEのバイナリを比較。
再生側
メディア → 「14、レンタルCDってそんなに酷いの?」で使用したレンタル落ちCD6のトラック3と、その正常CDのトラック3
対象機 → 音楽CDを再生できて光のS/PDIFがある機種をいくつか
- CD6のトラック3は先のテストでバイナリ不一致が最も多かったトラックです。
- 懇意にしているオーディオ店で3機種使用させていただきました。機種をもっと増やしたかったのはやまやまですが、悪いディスクを再生するのは気が引けました(^^ヾ
録音側
PC → ASUS Eee PC 900HA
サウンドデバイス → M-Audio TransitUSB 光 S/PDIF入力
録音ソフト → efuさん作 WaveSpectra1.42
比較
比較元 → 正常CDからPremiumでリッピングしたWAVE
比較ソフト → efuさん作 WaveCompare1.32
比較対象のPC用光学ドライブ
Maker | 種類 | Drive | 正常CD Track3 バイナリ相違数 |
CD6 Track3 バイナリ相違数 |
AOpen | COMBO | COM5232 AAH/PRO | 0 | 0 |
Benq | CDR | CRW5224 | 0 | 21 |
Benq | DVDR | DW1620 | 0 | 100 |
LG | CDR | GCE-8523B | 0 | 371 |
LG | DVDR | GSA-H42N | 0 | 273 |
MATSHITA | DVDR slim | UJ-846S | 0 | 219 |
MATSHITA | DVDR slim 外付 | LF-P968C | 0 | 557 |
Pioneer | DVDR | DVR-A05 | 0 | 124 |
Pioneer | DVDR | DVR-A16 | 0 | 916 |
Pioneer | DVDR | DVR-A16 PureRead | 0 | 317 |
Plextor | CDR | PX-W1610TA | 0 | 6 |
Plextor | CDR | Premium | 0 | 33 |
Plextor | CDR | Premium2 | 0 | 33 |
Plextor | DVDR | PX-712A | 0 | 203 |
Plextor | DVDR | PX-760A | 0 | 109 |
TEAC | DVDR | DV-W516E | 0 | 115 |
オーディオ用?プレーヤーの結果
Maker | 種類 | 機種 | 正常CD Track3 バイナリ相違数 |
CD6 Track3 バイナリ相違数 |
ESOTERIC | SACD/CD Player | SZ-1 | 0 | 3 |
KENWOOD | CD Player | DP-K1000 | 0 | 6230797 |
MARANTZ | CD Player | CD5003 | 0 | 37 |
MARANTZ | CD Recorder | CDR630 | 0 | 107 |
MARANTZ | CD Player | CD880J | 0 | 4 |
Pioneer | DVD HDD Recorder | DVR-620H | 0 | 180 |
DP-K1000のCD6だけが異常です。調査したところ、約85,000サンプル(2秒弱)の音声が欠落し、後の部分が前にずれていました。
注意)
ある程度バラつくので、この値でドライブ間の細かな比較をすることはお控え下さい。バクッと大雑把にお願いします。何回かの平均を用いるなどすべきかもしれませんが、以下の理由から行いませんでした。
- どうせ正常CDではバイナリが一致している。
- 悪条件の種類が変ればまた結果も変るだろうから、あまり凝っても仕方がない。
まとめ
- 異常な機種(または個体?)に遭遇しない限り、少しぐらいの悪条件ディスクの読み取りで、PCの光学ドライブに劣っているとは思えません。
- DVD HD レコーダーでもまあまあの結果が得られているので、ごく安価なプレーヤーでも同様に思われます。
- (いちおう念のため書いておきますけど)デジタル的にはこうなっていますが、実際に聴くとどうか? は、また別問題だと思っていますよ。
- この結果だけでドライブ間の細かい比較は行わないで下さいね。バラツキもありますし、まだまだ測定の数が足りません。それに、悪条件は様々ですから、別のCDを使えば結果はまた異なるかもしれません。